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言葉の限界を突破するために、『シュレディンガーの哲学する猫』

Book Book-サイエンス



20130505002925


学生時代、図書館に籠もってフーコー、ジル・ドゥルーズ、浅田彰、柄谷行人などの哲学書を読み漁った事があった。覚えているのはリゾームや交通などのキーワードだけだが、今にして思えば、辞書を片手に必死に理解しようとしたあの時の読書体験が、私の言葉を形成したのかもしれない。

Kindleストアで目に留まった本『シュレディンガーの哲学する猫』が面白かった。

シュレディンガーの猫とは、物理学者のシュレディンガーによる思考実験。猫と毒ガスと発生装置が入った箱は、蓋を開けて確認しない限り、生きている猫と死んでいる猫が同時に存在するという理屈。この猫が作中に登場し、各章で偉大な哲学者に化ける。

例えば、ウィトゲンシュタインに化けた猫はマッキントッシュを見て尋ねる「これは、計算機の類いかな?」。主人公は説明する「このマックからは、これまで使っていたコンピューターには感じた事のない、溌剌とした躍動感、笑みのようなものを感じるんです...」。猫は厳しい口調で遮る「実に曖昧だ。ボヤけて大雑把な言葉のとらえかただ。」。


本の目次
1. ウィトゲンシュタインの章 ラプソディー・イン・ブルー
2. サルトルの章 君は自由だ、選びたまえ
3. ニーチェ/ソクラテスの章 ブラザーサン・ブラザームーン
4. カーソンの章 沈黙の春
5. サン=テグジュペリの章 カイロの赤い薔薇
6. ファイヤアーベントの章 オペラ座の怪人
7. 廣松渉の章 四つん這いのエロ松
8. フッサールの章 巨大なエポケー
9. ハイデガー/小林秀雄の章 ひひじじい
10. 大森荘蔵の章 過去は消えず、過ぎ行くのみ


各章は物語と解説で構成されている。哲学者の解説をサイエンスライターの竹内薫が、シュレディンガーの猫と主人公の物語を翻訳家の竹内さなみが書き、小説のような語り口で私達を知の連鎖に引きずり込む。

例えば、ハイデガーの章で小林秀雄に興味が湧き、カーソンの章で『沈黙の春』のインパクトを知り、サン=テグジュペリの人柄に触れて『星の王子さま』が読みたくなり、サルトルの「百万人の飢えた子供たちにとって文学は何の意味があるのか」という問いに思いを巡らす。

ウィトゲンシュタインは言う「私の言語の限界は、私の世界の限界を意味する。語りえぬものについては、沈黙しなければならない。」と。私達は自分が知っている言葉とその組み合わせでしか、思いを表現する事ができない。

『シュレディンガーの哲学する猫』は、そんな言葉の限界を突破するための道標となる。

シュレディンガーの哲学する猫(Kindle Store 250円)


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