映画『虐殺器官』と普遍文法

 人間の脳にはあらかじめ文法が組み込まれている。幼児が言語を習得する際、単語を覚えるだけではコミュニケーションできない。脳に先天的な文法が備わっているからこそ、意味のある言葉になる。これは言語学者ノーム・チョムスキーが唱えた理論で、普遍文法と呼ばれている。

 手話と脳の関係を紐解くと、少し理解が進む。話し言葉と同様に、手話も左脳で処理する。手話は身振りや手振りを使う視覚言語で、脳に伝達される情報は画像だが、それにも関わらず左脳の言語野で処理する。インプットする器官が視覚でも聴覚でも、脳に普遍的な文法が組み込まれているから言葉として成立するというわけだ。

 先日、アニメ映画『虐殺器官』を観た。私は攻殻機動隊が好きで、それを超えるアニメをずっと探している。『PSYCHO-PASS』や『ヨルムンガンド』など惜しい作品はあったが、攻殻機動隊を超えるアニメはなかなか見つからない。そんな中、『虐殺器官』のプロモーションビデオを見て、攻殻機動隊に似た匂いを感じた。

 少しネタバレになるが、映画『虐殺器官』の中で、人間にはあらかじめ虐殺の文法が組み込まれているという話が出てくる。人間の脳には先天的に暴力本能が備わっており、そこを刺激するとみな虐殺者になるというわけだ。これはチョムスキーの普遍文法と似ている。

 実際、科学の分野では脳と暴力の関係について研究が進んでいる。脳の損傷により暴力的な人間に変貌する事例もある。暴力性の強い人間の脳をPETで解析すると、強い反応を示す暴力野のような部位がある。それを逆手に取って、犯罪や暴力を未然に防ぐ研究も進んでいる。以前にも書いたが、遠くない未来、犯罪予防はバイオフィードバックによって進歩するはずだ。

 映画『虐殺器官』は暴力シーンが多く、エンターテイメントとしては今一歩だったが、主題の発想は面白かった。生物において暴力は普遍的なものであり、何かを媒介にして引き出すことができるという発想。映画を観終えると、無性に原作が読みたくなった。作者の文法に触れてみたくなったのだ。

虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)

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